各紙誌で話題を呼ぶ、前代未聞の評論集

 

なぜ、北海道はミステリー作家の宝庫なのか?

鷲田小彌太・井上美香/著

本体1,600円+税
四六判ソフトカバー
276ページ
ISBN 978-4-900541-81-8 C0095

佐々木譲、京極夏彦、今野敏、馳星周、東直己、高城高etc…
北海道出身ミステリー作家の知られざる系譜を明かす「発見の書」!

  • 佐々木譲、今野敏、京極夏彦、馳星周、東直己、鳴海章、高城高…。日本ミステリーの一翼を担う北海道出身現役作家から、長谷川海太郎、久生十蘭、水谷準、渡辺温など、探偵小説草創期に活躍した戦前の作家まで、北海道には知られざるミステリーの系譜があった!
  • 戦前から戦後、現在につながる、北海道出身ミステリー作家80年の系譜、そして知られざる日本ミステリーとの深き縁を、約40人の作家論から明らかにする、ミステリー王国・北海道「発見の書」。

「本の雑誌」編集長も刮目の面白さ!

▼「本の雑誌」2009年9月号 〈今月の一冊〉より

まえがきより

 戦前、戦後、そして一九八〇年代以降の現在、北海道のミステリー作家は、数においても、その作品数と質においても、注目すべき成果をあげてきたといえる。
 郷土愛がある。そのなかには、郷土で生まれ、活躍した人々に対する愛敬がある。ところが、戦前の長谷川海太郎も久生十蘭も、北海道(函館)を捨てた人間であるといっていい。いわゆる郷土愛に欠けた人間である、と断じることができる。と同時に、国境を越えて生きようとした人間でもあるのだ。それは北海道生まれの人間に共通する、ある種の無意識でもあるだろう。
 佐々木譲や東直己、それに宇江佐真理は、北海道に在住しながら、しかし北海道に特有であるとされる安直な風土性やイデオロギーにとらわれず作品を発表している。鳴海章は郷里の帯広に居を移し、郷土愛にむしろ寄りかかるような作品を発表しはじめている。今野敏、京極夏彦、馳星周は、これまでのところハイパー欲望都市・東京(江戸)を舞台に作品を書いている。この四人が今後どのような軌跡を辿るのか、ますます楽しみだ。
 なお本書は、ミステリーのメインストリートにある作家を中心に、第一部・戦前、第二部・戦後、第三部・現役という大まかな時代区分のもとに展開してゆく。同時に、枝道や杣道を歩んだ作家も取り上げて紹介してゆく。
 この種の紹介の妙味は「発見」にある。さて、いくつ読者の胸に発見の灯を点すことができるだろうか。お楽しみあれ。(「序」より)

誌面の一例

目次

序――北海道はミステリー作家の宝庫か?
I ミステリーは文学じゃないのか?
II ミステリーの嚆矢は函館だって?
III 時代小説はミステリーか?
IV 戦後における北海道のミステリーは「不毛」か?
V 量からいっても質からいっても、北海道はミステリー作家の宝庫だ

第一部 戦前――函館生まれの探偵小説作家たち
I 函館が生んだ探偵小説三銃士
 ◆水谷準…日本ミステリーの草創期を切り盛りする
  編集者と作家の狭間で/評価されなかった戦後の長編/水谷なしに北海道にミステリーは生まれなかった
 ◆長谷川海太郎…「谷譲次・林不忘・牧逸馬」の三人で一人
  『丹下左膳』も『浴槽の花嫁』もミステリーだ/無国籍小説が持つ意味/傲岸と礼節の間で/「良質な小説」という高みを目指す
 ◆久生十蘭…探偵小説を芸術にまで高めたファーストランナー
  「海豹島」の幻惑、「顎十郎捕物帳」の洒脱/十蘭のメインテーマ/文壇からの冷遇/函館に顔を「背けて」
II ミステリーを切り開く
 ◆松本恵子…日本初の女性探偵作家
  女性探偵作家の夜明け/欧米文化と親しんだ幼少期
 ◆渡辺啓助…探偵小説の黎明期を生きた長寿作家
  作家の道に導いた二つの悲しみ/弟・温の存在
 ◆渡辺温…横溝正史とコンビを組んだ、夭折のモダンボーイ
  「新青年」に生き、「新青年」に散る/愛すべき人柄と惜しまれた才能
 ◆地味井平造…芸術に遊んだ画家の手遊び
  埋もれた存在/乱歩が鮎川が讃えた才能

第二部 戦後――消えた作家、甦った作家
I 「忘却」と「再発見」
 ◆楠田匡介…脱獄トリックの名手
  長編ではなく短編がいい/「復活!」といえば大げさか
 ◆夏堀正元…影薄い多作な社会派
  社会派の落とし穴/本当にミステリー作家なのか?
 ◆高城高…和製ハードボイルドの先駆者
  ハードボイルド前夜を走る/高城は短編作家なのか?
 ◆中野美代子…ミステリー史に名の出ない偉才
  行間に漂うミステリアスで隠微な空気/「一字」で千変万化の世界を織りなす
 ◆幾瀬勝彬…戦中派の美学
  娯楽作と異色作/戦場の記憶を「娯楽」へ転写
 ◆南部樹未子… 不毛な「愛」のさまざまな結末を描いて
  型どおりの愛憎復讐劇
 ◆佐々木丸美…復活遂げた「伝説」の作家
  伝説化で広がったファン層/作家と読者の共通意識
II ミステリーも手がけた作家
 ◆伊藤整…考え抜かれた方法論で書く
  ニヒリズムの極致/独白と幻想
 ◆井上靖…謎解きの面白さと重厚な人間ドラマ
  『氷壁』のハードボイルドなカッコよさ
 ◆三浦綾子…鈍るミステリーとしての論理性
  見逃せない信仰の影響
 ◆加田伶太郎(福永武彦)…純文学作家の見事なる余技
  キャラクター造形の妙
 ◆寺久保友哉…精神科医が仕掛けるミステリー
  心の森を彷徨う

第三部 現役―― 日本ミステリーの一翼を担う
I 第一線で活躍する作家たち
 ◆佐々木譲…冒険小説から警察小説へ、「エースのジョー」誕生!
  冒険小説の白眉『エトロフ発緊急電』/文字通りの代表作『警官の血』/
  作品の核心にあるもの
 ◆今野敏…「自立自尊」の生き方を貫く
  二つのシリーズで描く、好対照の警官像/ミステリーと倫理の密なる関係
 ◆東直己…日本ハードボイルドの巨艦
  ハードボイルドの幅を広げた、名無しの探偵/『残光』でハードボイルドを極める/
  奇妙な小説たちの持つ意味
 ◆鳴海章…故郷に戻り、新境地を開く
  パイロットのプロ意識が見所の『ナイト・ダンサー』/
  警官の境目を描く『ニューナンブ』/ララバイ東京
 ◆京極夏彦…世を目晦まし異境に生きる、時代の寵児
  ベストセラーの謎/京極作品が読まれる理由/言葉で呪い、言葉で祓う/
  饒舌と自己演出/辺境としての北海道
 ◆馳星周…異端こそ、日本文学の正統な潮流
  度肝を抜いたデビュー作/恐怖と魅惑の「異国」/底なしの狂気を冷徹に追求
II まだまだいる、ミステリー作家たち
 ◆井谷昌喜…ジャーナリストならではの視点
  説得力あるバイオサスペンス
 ◆内山安雄…陽性のアジアン・ノワール作家
  体当たり人生から生まれた作品/海外で迎えた二度の転機
 ◆奥田哲也…得体の知れない毒素を仕込む
  どこか壊れた物語
 ◆丹羽昌一…中南米の風土に魅せられて
  元外交官ならではのリアルな状況描写
 ◆矢口敦子…ブレイクの秘密
  乙女チックなミステリー
 ◆桜木紫乃…男女の関わりをテーマに
  原田康子を超えられるか
 ◆小路幸也…不思議な浮遊感で描く、救いの物語
  新しい発想に満ちた奇抜なストーリー
 ◆佐藤友哉…二十一世紀に息づく、北海道ミステリー作家の潮流
  「恐るべき子ども」が生み出した「おとぎの世界」
III ミステリーも手がけた作家たち
 ◆原田康子…作家としての原点であるミステリー
  ミステリーを書いた理由
 ◆渡辺淳一…心の謎への飽くなき探求心
  ミステリー好きには一読の価値あり
 ◆荒巻義雄…伝奇色の濃い荒巻的ミステリー
  「架空戦記」前の作品に一興あり
 ◆嵯峨島昭(宇能鴻一郎)…変態する鬼才の片鱗
  官能作家・宇野の異能ぶり
 ◆久間十義…ぶれない生真面目な視点
  実際の事件をモチーフに
IV ジャンルを横断するミステリー
 ◆川又千秋…荒巻義雄の流れを汲む
  『幻詩狩り』の荒唐無稽な面白さ
 ◆朝松 健…筋金入りのホラー作家
  ホラーとミステリーの境界をゆく
 ◆森真沙子…時代小説に転じたベテラン作家
  受け継がれるミステリーの結構
 ◆宇江佐真理…時代小説界の超新星
  宇江佐の時代小説はミステリーだ
V ミステリーを評論する
 ◆山前 譲…ミステリー評論の正統派
  マニアックさを感じさせない叙述
 ◆千街晶之…本格ミステリー批評を目指して
  先入観を裏切るわかりやすさ

跋――なぜ、函館はミステリー作家の水源地なのか?
一、なぜ、函館から生まれたのか?
二、函館が国際都市であったことの影響
三、出身作家を顕彰する小樽、しない函館
四、作家の営為を吸収し、未来へ生かす
五、孤独な闘いを続ける作家たちに光を

著者プロフィール

鷲田小彌太(わしだ・こやた)
 1942年北海道札幌市生まれ。1966年、大阪大学文学部哲学科卒業。1972年、同大学大学院博士課程修了。津市立三重短期大学教授を経て、札幌大学教授(2013年3月退官)。哲学・倫理学の教鞭をとる傍ら、評論活動、エッセイ・人生書等の執筆も精力的に行う。『新大学教授になる方法』(ダイヤモンド社)、『日本を創った思想家たち』(PHP新書)、『「佐伯泰英」大研究』『ビジネスマンのための時代小説の読み方』(共に日経ビジネス文庫)など、著書は200冊を越える。
●HP「鷲田小彌太の仕事」http://www8.ocn.ne.jp/~washida/

井上美香(いのうえ・よしか)
 1963年北海道札幌市生まれ。鷲田研究所の所員として鷲田小彌太の仕事を補佐しながら、新聞等で原稿を執筆。本作が初の著書となる。