2025年12月13日、全道主要書店で発売!
石狩川随想
―私が出逢った人・食・歴史
小泉武夫/著
定価2,420円(本体2,200円+税10%)
四六判並製
181ページ
ISBN 978-4-906740-72-7 C0095
見て、知って、驚いた! これぞ「石狩讃歌」
誌面紹介
◇巻頭には本書に関連する石狩マップを掲載
◇各章の中扉や装丁には、石狩市の青木隆氏が撮影された昭和30~40年代の写真を掲載(石狩市民図書館所蔵)
目次
プロローグ
Ⅰ 石狩の川漁師
Ⅱ ニシンを巡る二人の老人の話
Ⅲ 石狩の味
Ⅳ 石狩の生きものたち
Ⅴ 魂祭
Ⅵ 鮭の神様
Ⅶ 石狩街道─札幌と石狩
エピローグ
前書きなど
東京の大学で定年の63歳まで教鞭を執っていた私は、待ちに待った退職の日を迎えた。やっとのこと、組織という枠から解き放たれた解放感に、私の心にはうれしさが込み上げ、新しい人生に踏み出す第一歩には弾むような力が漲みなぎっていた。
一度しかない人生、あとは好きなようにのうのうと生きようと、まずは長年の望み通り札幌に移り住んだ。妻は寒いところは苦手だから、娘や孫らといっしょに暖かい東京に残るというので、私一人の生活が始まった。まあ、気楽な単身赴任といったような老後の札幌住まいである。
札幌に心惹かれたのは、かなり前からのことだ。大学教授の時代に、北海道庁から技術アドバイザーを委嘱されてしばしば訪れていたこと、さらにこの街にある大きな水産会社から共同研究の要請を受け、頻繁に往復していたこともある。そこで見たのは、札幌の美しい景観であった。
手稲山や藻岩山の頂いただきを毎日見ることができ、夏は緑豊かで涼しく、冬は厳冬白銀の世界。そして最大の魅力は、巡り来る四季の変化とその美しさである。
春、4月少し前に雪が解け始めると、ポプラや柳の大木の枝々に小さな淡い緑の芽が吹き、5月に入ると家の庭々にはシバザクラやチューリップ、ヒナゲシ、スミレ、ルピナス、クロッカス、フジ、ラベンダーといった、目の覚めるように色鮮やかな花々が咲き乱れる。真夏の早朝の大通公園や豊平川河川敷に漂う冷ひんやりとするぐらいの澄んだ空気、そして秋の街路を彩る深紅なナナカマドの実。11月になって、ちらほらと雪が降り出すと、遠く恵庭岳が真っ白く化粧し、そして年の末には何もかもすっぽりと真白き雪に被われ、静寂に包まれる街裏の住宅地─。
私はその、通り過ぎる四季の美しい変化を見逃すまいと絶えず周囲の自然を眺めながら、いつも心弾ませて札幌の市中や郊外を歩くのである。
そして実に幸運なことに、共同研究をしていた札幌市に本社を構える水産会社が、発祥の地である石狩市の親船町という所に、新たに鮭を中心とした加工場と研究室をつくることになり、自由な発想で商品開発の仕事をしてみないか、という誘いをいただいたのである。ちなみにこの会社は、石狩湾を中心に北海道全域で漁獲される天然の鮭を加工、流通させる道内トップクラスの企業である。
この話に私は心を躍らせた。それは、毎日ぶらぶら節のように札幌の街を歩いていると、時折何とはなしに空虚感を抱くことがあって、日々の暮らしの中に変化や刺激がほしいと内心思っていたからである。
こうして、比較的規模の大きい加工場の2階の隅に、小回りの利く研究室をつくってもらった私は、札幌の住まいから毎日のように親船に通って好き勝手な研究をするという、至福の日々を迎えることができたのだ。
(「プロローグ」より)
著者プロフィール
小泉武夫(こいずみ・たけお)
1943年(昭和18)、福島県の酒造家に生まれる。東京農業大学名誉教授。農学博士、専攻は醸造学・発酵学・食文化論。日本醸造協会伊藤保平賞や三島雲海学術奨励賞などを多数受賞。発酵食品ソムリエ講座「発酵の学校」の校長として、技術者や後身の育成に力を注ぐ。NPO法人発酵文化推進機構理事長や全国発酵のまちづくりネットワーク協議会会長など、食に関わる活動も数多い。これら発酵文化に広く貢献した業績により、文化庁長官賞を受賞する。現在、鹿児島大学、福島大学、宮城県立大学、石川県立大学などで客員教授を務める。小説家として食品文化を題材とした作品も多数発表。代表的な著作に『酒の話』(講談社現代新書、1982)、『発酵食品礼讃』(文春新書、1999)、『蟒(うわばみ)之記』(講談社、2001)、『食と日本人の知恵』(岩波現代文庫、2002)、『最終結論「発酵食品」の奇跡』(文藝春秋、2021)、『江戸の健康食』(河出書房新社、2016)、『超能力微生物』(文春新書、2017)、『北海道を味わう』(中公新書、2022)、『発酵食品と戦争』(文春新書、2023)など、単著だけで160冊を超える。日本経済新聞の連載コラム「食あれば楽あり」は、1994年から現在まで30年以上にわたり連載が続く。