第1回サムライジャパン野球文学賞特別賞受賞

 

監獄ベースボール~知られざる北の野球史

成田智志/著

本体1,600円+税
四六判ソフトカバー(本文2段組)
296ページ
ISBN 978-4-900541-83-2 C0093

明治期の北海道に、塀の中で熱闘を繰り広げた囚人たちがいた!
知られざる、もうひとつの“フィールド・オブ・ドリームス”

 明治期の北海道で、囚人たちがベースボールを楽しんでいた!その史実を基に、綿密な取材と大胆な解釈で描いた歴史小説が誕生した。
 明治中期、北海道開拓のために作られた監獄「集治監」。そこに全国各地から送り込まれた囚人たちは、石炭採掘など過酷な労役に苦しんでいた。
 そんな中、典獄(監獄所長)の大井上輝前は、アメリカ留学で出会ったベースボールとキリスト教を囚人教化に採り入れ、監獄の改良を志すが――
 国策の犠牲となった囚人たちと、彼らに希望の光を与えた大井上典獄の半生をドラマチックに描いた異色の長編歴史小説。

目次

◇第一章 監獄の春
 北国の球春―明治二十五年、月形村樺戸集治監/遠島開獄の地、北海道/福音、それはベースボール
◇第二章 典獄・大井上輝前
 南国の志士、大井上/北門鎖鑰の重鎮として/転機―典獄人生の始まり
◇第三章 教誨師・原胤昭
 江戸っ子、原胤昭/投獄―神が敷いた道/結縁―北海の地と
◇第四章 釧路集治監初代典獄として
 空知集治監の内実/幌内炭鉱の惨状/懲戒主義の台頭/二人三脚―「官軍」と「賊軍」が手を組んで/アトサヌプリ硫黄山―魔の山/緩慢なる死刑/鬼気一掃へ/熊牛の別れ
◇第五章 空知集治監での一年
 職分と信仰の狭間で/国策に抗って/江別での邂逅/惨状―獄衣の坑夫たち/緩慢な死刑、再び/ベースボールの息吹き/栄転―大典獄への道/囚徒を引き連れて
◇第六章 朔北のベースボール隆盛地
 遠来の珍客/新任地、樺戸へ/二つの球場/二軍、三軍の育成/月形・市来知打球会定期戦/熱戦の始まり/劇的な幕切れ/禁酒を解いて
◇第七章 若きキリスト者に託す夢
 教誨師・留岡幸助/蒔かれた種/若人に夢託して
◇第八章 囚徒から使者へ
 襟番号五百八十番/凍った心/ベースボールの使者
◇第九章 主なき球場
 破獄経験囚、竹忍者/忍び寄る影
◇第十章 弾圧にさらされて
 ふりかかる試練/胸に刺さる棘/再燃、不敬事件/季節は巡れど
◇第十一章 北の大地に殉じて
 よき理解者を得て/炭鉱外役、廃止へ/溢れ出る喜び/迫る戦争の影/名典獄、去る

◇付録
 〈地図〉本書の主な舞台~明治初期・中期の北海道/本書関連年表/本書関連ブックガイド

前書きより

 本書の目的は二つある。一つは、近代日本の行刑史に比類なき事蹟を遺した、大井上輝前という名典獄の存在を知っていただくこと。そしてもう一つは、明治十一(一八七八)年の札幌農学校創設から始まったとされる北海道の野球史に、これまで顧みられることのなかった「監獄での囚人野球」という新たな1ページを、是が非でも加えたいということである。
 時を遡ること百二十年前、罪科にまみれた極悪囚や国事犯が獄窓生活を送る北辺の監獄に、まさに「福音」と呼ぶにふさわしいバットの快音が響き渡っていた―この驚くべき史実を、どうして歴史から消し去ることができよう。「邪教」として、明治期に至ってから数々の迫害を受けたキリスト教と、自由と平和の象徴とも言えるベースボールが織りなす大井上輝前の人生は、調べれば調べるほど実に人間味に溢れていることがわかった。
 その時代が終わってから、まもなく1世紀が経とうとしている。明治という時代がはるか遠くに感じられるようになった今こそ、“ベースボール典獄”大井上輝前が遺した数々の足跡を、私たちの記憶にドラマチックな形で継承し、北辺氷雪の地で「魂の開拓」をなした史上稀有なその存在を語り継いでいく必要がある―。そんな思いの丈を、この作品を通して読者諸氏に汲み取っていただければ幸いである。

著者プロフィール

成田智志(なりた・さとし)
 1963年、北海道千歳市出身。江別市で育つ。北海学園大学法学部法律学科卒業。札幌学院大学人文学部英語英米文学科卒業。北海道教育大学大学院教育学研究科修士課程修了。地域の文芸誌に随想・随筆を寄稿するなど執筆活動を続けてきた。長編小説は本書が初となる。江別市在住。