2012年7月7日発売!いま、明らかになる北の映画草創期

 

明治期北海道映画史

前川公美夫/著

本体3,600円+税
A5判ソフトカバー
416ページ(図版多数収載)
ISBN 978-4-906740-00-0 C0074

北海道における映画草創期の実情を明らかにする、精緻な映画史研究

解説

明治30年のシネマトグラフ北海道初登場から、明治45年に撮影された初の道内ロケ劇映画まで、明治期の北海道における興行や製作など、映画草創期の実情を明らかにする精緻な映画史研究。当時の新聞記事や広告から丹念にたどる調査や取材により、知られざる事実を多数発掘。明治時代の北海道における映画の歩みを正確に記録した、前人未到の書。

「はじめに」より

 北海道の映画の歴史についての最も基本的な文献は更科源蔵『北海道映画史』(およびそれに先立つ『北海道活動写真小史』)である。さっぽろ文庫49『札幌と映画』も資料はこれに拠っている。
 ほかにめぼしいものがなかったところで知ったのが弁士駒田好洋が昭和五年に都新聞(現在の東京新聞)紙上で語った「巡業奇聞(正・続)」である。永嶺重敏『怪盗ジゴマと活動写真の時代』でその存在を知り私が調べてきた北海道音楽史の参考になることがあればと記事を入手したら活動写真導入期の北海道で繰り広げられた荒唐無稽な話が満載だった。その裏付けを求めるうち、私なりの北海道映画史をまとめることがあればこの連載を盛り込みたいし「巡業奇聞」の翻刻も入れたいと考え出した。
 全国巡業についても調べるうちに新たな発見があるなどして「巡業奇聞」全体の翻刻が第一と思いを定め、『頗る非常! 怪人活弁士・駒田好洋の巡業奇聞』(新潮社)を仕上げた。そのあと初志に返ってまとめたのが本書である。
 『北海道映画史』執筆の原資料を求めて更科夫人および旧蔵資料の一部が移されている弟子屈町立図書館に問い合わせたが得られなかった。刊行元クシマの経営者九島勝太郎は昭和六十一年六月一日の北海道新聞「ほん」欄「思い出の一冊」に『北海道活動写真小史』を取り上げ、更科の協力者として一人の女性の名を挙げていた。彼女が何か知っているかもしれないと思ったのだが、更科と親しい大学教授から声を掛けられた学生だったろうという話で追うのを断念した。九島の遺族のもとにもなかった。
 しかし、一から調査を始めた結果、新たな発見が得られたプラス面は大きかった。中には漏らした記事があるだろうし、広告は網羅的に集めなかったため紹介したものがすべてというわけではない。しかし、大きく外したものはないと考えている。

目次

◆第一章 通史
明治三十年(1897)
【明治30 キネトスコープ】/【明治30 シネマトグラフ】〈シネマトグラフおよび明治期興行ものの入場料〉/【その他】〈バイタスコープの記事〉〈鶴淵幻灯舗の広告〉
明治三十一年(1898)
【明治31―A 駒田好洋巡業隊】/【明治31―B 詳細不明(器械映画)】/【明治31―C 詳細不明(活動幻灯)】/【その他】〈吉沢商店の広告〉
明治三十二年(1899)
【明治32―A 団体名不詳】/【明治32―B 改良活動大写真】/【明治32―C シネマトグラフ】/【その他】〈小樽の鈴木政五郎が映写機を購入〉〈幻灯画を運転〉〈ジレルが撮ったアイヌ舞踊〉
明治三十三年(1900)
【明治33―A 札幌・大黒座主購入の映写機による上映】/【明治33―B 団体名不詳】/【明治33―C 駒田好洋巡業隊】/【明治33―D 団体名不詳】他/【その他】〈吉沢商店の広告〉
明治三十四年(1901)
【明治34―A 団体名不詳】/【その他】〈鶴淵幻灯舗の広告〉
明治三十五年(1902年)
【明治35―A (錦絵活動写真)】/【明治35―B 団体名不詳】/【明治35―C 団体名不詳】/【明治35―D 日本活動写真会】他/【その他】〈堀清治郎の「活動写真器械」広告〉〈小樽「稲穂座」が「大黒座」に〉
明治三十六年(1903年)
【明治36―A 東京活動写真会】/【明治36―B 下田歌子講演会の活動写真】/【明治36―C 岡山孤児院慈善音楽幻灯会に活動写真】他/【その他】〈『活動写真術自在』の広告〉
明治三十七年(1904年)
【明治37―A 日本活動写真会】/【明治37―B 団体名不詳】/【明治37―C 横浜活動写真会】/【明治37―D 日露戦況活動大写真幻灯会】/【明治37―E 日露交戦実況活動写真】/【明治37―F 日露幻灯】他
明治三十八年(1905年)
【明治38―A 戦況報告日露戦争活動写真】/【明治38―B 大本営認可活動大写真会】/【明治38―C 団体名不詳】/【明治38―D 東京従軍活動写真会】/【明治38―E 東京活動写真会】他/【その他】〈吉沢商会の広告〉
明治三十九年(1906年)
【明治39―A 東京活動写真会】/【明治39―B 東北三県慈善活動写真会】/【明治39―C 赤帽子活動写真隊(上映なし)】/【明治39―D 美国団活動写真興行】/【明治39―E 世界活動写真会(西沢)】他/【その他】〈『北海道映画史』の写真〉〈『演芸画報』〉〈吉沢商店の広告〉
明治四十年(1907年)
【明治40―A 団体名不詳】/【明治40―B 札幌孤児院慈善音楽活動写真会】/【明治40―C 水上活動写真会】/【明治40―D 日英活動写真会】/【明治40―E Mパテー活動写真】/【明治40―F 団体名不詳(横浜アントニー商会からフィルム入手)】他/【その他】〈内外活動写真会〉〈室蘭での「胡蝶の舞」〉
明治四十一年(1908年)
【明治41―A 大日本活動写真会】/【明治41―B 水上活動写真会】/【明治41―C 横田商会活動写真(第一回)】/【明治41―D 内外活動写真会】他/【その他】〈弁士と客〉〈入場料の区分〉〈実物幻灯〉〈映写機械の月賦と中古品〉〈作品タイトル〉
明治四十二年(1909年)
I 話題◇一、函館・錦輝館が活動写真常設館に/二、韓太子の道内旅行を撮影
II 巡業隊の動き 【明治42―II―A Mパテー活動写真会】/【明治42―II―B 横田活動写真】/【明治42―II―C Mパテー東洋合同活動写真】他/【その他】〈吉沢商店の広告〉
明治四十三年(1910年)
I 話題◇招待活動映画会/II 常設館◇函館・錦輝館/III 巡業隊の動き 【明治43―III―A 東京三福活動写真会】他/【その他】〈興行界と消防〉他
明治四十四年(1911年)
I 話題◇東京日日新聞社の巡業隊/II 常設館・新設館/III 巡業隊◇一、東洋活動写真会/二、Mパテー/三、その他/【その他】〈Mパテーの広告〉他
明治四十五年=大正元年(1912年)
I 話題◇一、道内撮影/二、スキー導入期の活動写真巡回/三、白瀬中尉の南極探検/四、歌舞音曲停止/五、大葬模様の上映/六、招待活動映画会/七、「ジゴマ」が上映禁止に/八、小樽・住吉座の改築問題」
II 常設館◇一、既設/二、新規/三、計画のみ? うわさ話?/III 巡業隊/【その他】〈鶴淵幻灯舗の広告〉

◆第二章 こぼれ話
第一部 活動写真の世界◇第一節 酸素ガス〈明治30年代―〉/第二節 全部取替?〈明治42年―〉/第三節 時計台が常設館に!? 〈明治44年、北海タイムス〉/第四節 荷風の「シネマトグラフ」/第五節 横田永之助は札幌農学校に入学したのか
第二部 石川啄木◇第一節 啄木の家族が見た活動写真〈明治40年〉/第二節 啄木は釧路で本当に活動写真を見たのか〈明治41年〉
第三部 興行◇第一節 「吉原芸妓の音楽隊」発足〈明治34年、北海朝日新聞〉/第二節 函館にも「広目屋」〈明治35年、北海朝日新聞〉/第三節 「カーメンセラ嬢」の記事〈明治36年、函館公論〉/第四節 町回りのルール〈明治44年、釧路新聞〉/第五節 まがいもの・にせもの〈明治44年、釧路新聞〉/第六節 余別座の木戸札〈大正―昭和初期〉
第四部 連鎖劇◇第一節 その名は北海道発祥?〈明治末期―大正半ば〉
第五部 流行語「応用」◇第一節 活動写真界〈明治40年代〉/第二節 演劇界―元祖・山口定雄を中心に〈明治20年代後半―40年代〉/第三節 その他の分野〈明治30年代―40年代〉
第六部 新聞界◇第一節 何とも無責任〈明治30年〉/第二節 連載「活動写真に就て 写真撮影上の苦心」〈明治42年、小樽新聞〉/第三節 教育と活動写真〈明治41年―44年〉他

◆第三章 「巡業奇聞」(北海道分)検証補遺
第一部 本文と注釈◇「巡業奇聞」 (23)小樽の名物だった三座主/(24)室蘭を回って秋田へ◇「続話巡業奇聞」 (33)公然黙許の北海の賭場/(34)殺人宿と熊に会った話/(35)仲吉が芸妓になるまで/(36)日毎に悪くなる宿屋の賄い
第二部 検証◇「巡業奇聞(23)小樽の名物だった三座主」/「巡業奇聞(24)室蘭を回って秋田へ」/「続話巡業奇聞(33)公然黙許の北海の賭場」/「続話巡業奇聞(34)殺人宿と熊に会った話」/「続話巡業奇聞(35)仲吉が芸妓になるまで」

著者紹介

前川公美夫(まえかわ・くみお)
 1948年登別市生まれ、室蘭市育ち。1971年北海道大学工学部建築工学科卒業。北海道新聞社で文化部長、編集委員、道新ぶんぶんクラブ事務局長、出版委員などを務めて退職。2010年から(財)札幌市生涯学習振興財団理事長。著書に『有島武郎の札幌の家』(星座の会)、『北海道洋楽の歩み』(北海道新聞社)、『北海道音楽史』((1992年=私家版、1995年=大空社、2001年新装版=亜璃西社)、『響け「時計台の鐘」』(亜璃西社)、『頗る非常! 怪人活弁士・駒田好洋の巡業奇聞』(新潮社)がある。また、アマチュア室内オーケストラ「札幌シンフォニエッタ」と「テー・デュ・ノール木管五重奏団」でファゴット演奏を楽しむ。